「思い出が夫婦をつなぎとめる。」と僕は思っています。
楽しかった思い出、辛かった思い出、何気ない日々の思い出
そういった思い出が、育児に家事に仕事に追われ、夫婦としての関係性にヒビが入りそうな時に、2人をつなぎとめてくれます。
僕ら夫婦をつなぎとめている思い出は、新婚旅行先のハワイでの、パラセーリングです。
パラセーリングは、船で沖に出て、パラシュートを身体につけて、船がバーっと走って
その勢いで空高く飛んで、上空からの景色を楽しむマリンスポーツです。
こんな感じですね。
船を勢いよく走らせる必要があるため、船は沖に出なければなりません。
僕は子どもの頃から、かなり乗り物酔いをしやすい体質です。
この時も、ちょっと嫌なら予感はしたのですが、まーなんとかなるだろと思い、パラセーリングを申し込み、船に乗りました。
なんともならなかったですね。
たいして揺れてなかったのかもですが、前日までハワイのレストランやバーで、食べまくり飲みまくりだったせいか
個人的には、漁船か?と思うくらいの船の揺れで、もう、すぐに吐きそうになりました。
でも、なかなか吐こうと思っても吐けないんですよね。
新婚の妻が横にいるからか、小さな女の子も乗っているせいか、全然吐けなくて、ひたすら気持ち悪かったです。
吐きたいけど吐けない時って、一番辛いんですよね。
吐けば楽になるのに、それができないから永久に吐き気と戦わなきゃならない。
その時、向かいに座ってた60代くらいの白人のおじいちゃんが、僕にアメをくれたんですよ。
「これでも舐めな。気分良くなるぜ。」
みたいな、アメリカンスマイルでアメを差し出されて、本当は断りたかったんですが
それじゃ、このおじいちゃんに悪いなと思って
「さ、さんきゅー」とアメをもらい、口に入れました。
これがよくなかったです。
このアメ、ハッカ系のスカッとするアメだったんですが、めちゃくちゃ甘い。
もう、砂糖を煮詰めて、煮詰めて、煮詰めまくったみたいな、そんな究極の甘さとハッカが融合したみたいな味で
まったくスカッとしなくて、さらに吐き気が増しました。
もう、ダメだ。
失神しそうなくらい気持ち悪い。。。
と思っていたら、スタッフが順番を先にしてくれて、早くパラセーリングに乗ることになりました。
「上に行けば気分良くなるから!」
みたいなことをスタッフに言われ、シートベルトを締め、もうろうとしていたら、あっという間に上空に引っ張り上げられました。
上空から見ると船は小さく見え、海の向こうにオアフ島のキレイな景色が広がっていました。
一緒に乗った妻は「きれい!きれい!」とすごいはしゃいでいて
僕は吐き気と戦いながら、険しい顔で、空か海か島か、どこかの一点を見つめていたと思います。
その時
船にいるスタッフが、パラセーリングにつながっているひもを引っ張り、僕の体がぐらっと揺れました。
僕の体は、僕の意識が「揺れている」と感知する前に揺れ
その意識と体の感覚のズレが発生した瞬間
思いっきり、空の上から吐きました。
吐瀉物がキラキラと空の上から降り注ぎ
その吐瀉物が小さな点々になっていくのを、妻と2人で眺めていました。
僕は、人生最悪の船酔いから解放され、呆然としていて、妻は驚きの展開にひたすら爆笑していました。
それ以降の記憶は飛んでしまって、もう覚えていないです。
船に降りたことも、港に戻ったことも、なにもかも忘れました。
ただ、僕の吐瀉物が、空の上から海に向かって落ちていき、キラキラと光る点々が段々と小さくなっていき
横で、妻が大爆笑していたことだけは、きっと死ぬまで忘れないと思います。
そして、妻も、この話を死ぬまで忘れないと思います。
新婚旅行の思い出話をするたびに、僕らはこの話で盛り上がります。
きっと、これからも、僕ら夫婦の関係をつなぎとめ続けるであろう、大切な思い出です。
めちゃくちゃ、気持ち悪かったけど。
新婚旅行はそんなに乗り気じゃなかったですけど、行ってよかったです。
旅行自体を楽しむというよりも、一生、夫婦2人が共有できる、何物にもかえられない、大切な思い出を作ることができます。
そして、その思い出が、夫婦2人をどんな時もつなぎとめてくれます。